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The locus of the moon

The locus of the moon

手作りチョコと時計台(氷崎・葵)

手作りチョコと時計台。


明日はバレンタイン。
恋する乙女は愛しい彼の為にチョコレートを作っている最中。
そして告白される彼はチョコレートがもらえるかドキドキしながら明日の準備をしている。
バレンタインは恋する人々にとって神聖で特別な日。
「またこの時期がやってきたか」
東京のとある場所にある時計台に住む住人はそんな言葉をもらした。
時計台に住む住人はバレンタインの時期になるとため息をもらす。
理由は一つ。
”この時計台で告白するとカップルになれる”そんな伝説ができていて、普段は人気が無く静かなこのあたりもバレンタインの時期になると恋する乙女で賑わうからだ。
「さて今年はどんな人間がやってくるかな。」
時計台の住人はそんな事を呟くと明日に備え深い眠りへついた。


ー 水の女神リーゼと氷崎・葵 ー

「リーゼさんリーゼさぁん」
氷崎・葵はペットショップの仕事の合間に傍らのリーゼに話しかけた。
「どうしたの?葵」
水の女神リーゼは氷崎・葵に優しく微笑みかけた。
葵は仕事の合間にリーゼによく話しかける。氷崎・葵はのんびりとした口調で
「もうすぐバレンタインですよねー」
とリーゼに楽しそうに語りかけた。リーゼはそんな氷崎・葵を優しく見つめると
「そうね」
そう言うと氷崎・葵の傍らに座り氷崎・葵の仕事ぶりを見つめた。
「私伝説の時計塔の告白に憧れてるんですよー。でももうそんな歳じゃないかなぁ」
氷崎・葵は犬のブラッシングをしながら少し寂しそうにリーゼに語りかけた。
「ふふ、そうなの」
リーゼは氷崎・葵を見つめた。このゆっくりとした話し方や行動が周りから天然と言われるのだろう、リーゼはそう思うと優しげに氷崎・葵を見つめた。
「でも彼氏が欲しいってわけでもないんですけどねー」
犬のブラッシングを続けながら氷崎・葵はリーゼに話しかける。
「そうなの?」
リーゼはその言葉を聞くと可愛い葵の為に一肌脱いであげようかと思った。
だが葵の言った事は難しい。告白はしたいけど彼氏が要るわけでもない…。
なら期間限定の恋などどうだろう?一週間だけの恋人。
幸いにもバレンタインまで1週間程ある。出会いを作り、仲良くなるには程よい期間だ。
出会い、時計塔で告白して少しだけの恋人として離れていく二人。
そんな恋もいいのではないか。
(恋の女神ってわけじゃないからうまくいくかどうかはわからないけど)
とリーゼは思いつつも葵の腰まで伸びた綺麗な青いストレートヘアと白い肌を見ながら
(頑張っちゃおうかな)
と思った。そんな時だ、リーゼの元に来客が訪れた。
水と温度を操る聖霊。妹のように可愛がっている聖霊だ。
リーゼは氷崎・葵にわからないように聖霊と話をすると少し微笑んだ。
(これなら上手くいくかも)
そう考えるとリーゼは氷崎・葵に向かい
「とりあえずペットの散歩のコースを時計台のある方向に変えてみたら?」
そう言うと氷崎・葵に微笑んだ。リーゼの作戦開始である。


ー 必然の出会い ー

「リーゼさん、散歩コースを変えただけで何か起こるものなんでしょうか?」
氷崎・葵はそう言うとペットショップで世話をしているミニチュアダックスを見つめた。
リーゼは氷崎・葵に優しげに微笑むと
「ふふっ、そうね。でも何かを変えないと出会いだって無いんじゃないかしら?」
氷崎・葵のを母親のように優しく見つめた。
時計台のある公園の傍に近づくとリーゼは氷崎・葵に少し悪戯をした。
(ヒュー)
氷崎・葵の手に向けて冷たい息を吹きかけたのだ。
「キャ!」
氷崎・葵は短い悲鳴を上げると持っていたミニチュアダックスのリードを放してしまった。
「あ!犬が」
そう言うと氷崎・葵は犬を追いかけた。そして
「誰かその子を捕まえて下さい!」
氷崎・葵は叫びながら犬を追いかけた。そして犬はある男性のところへ嬉しそうに駆け寄った。
その男性は黒髪に青い瞳。細身の体で身長は氷崎・葵よりも少し高いくらい。
顔立ちは優しげで氷崎・葵は
(優しそうな人)
と心の中で思った。そしてその男性の元にたどり着いた時男性は犬を抱え氷崎・葵を待っていた。
「ありがとうございます。」
氷崎・葵は息を切らせながら男性にお礼を述べた。男性は氷崎・葵を見ると少し止まったようになり、氷崎・葵は少し不思議に思ったが、犬を捕まえてもらったお礼をと思い男性に話しかけた。
「ありがとうございます。私、氷崎・葵と言います。」
そう言うと微笑みながら
「お礼をさせていただきたいのですがお名前を教えて下さい。」
と言った。男性はは捕まえた犬を氷崎・葵に差し出すと
「えーと、平野菜月と言います。」
そう言うと少し顔を赤らめ俯いた。
リーゼは氷崎・葵に向かい小さな声で
「出会い、あったじゃない。」
と優しく微笑んだ。それが二人の出会いだった。


ー 少しだけの ー

「平野さん。」
氷崎・葵は元気に平野菜月へと声をかけた。
時計台の下で待っていた平野菜月は笑顔で氷崎・葵へと答える。
初めて会ったあの日から平野菜月と氷崎・葵は奇妙な関係を築いていた。
それは”バレンタインまでの限定の恋人”と言う関係。
リーゼだった。
氷崎・葵はリーゼの提案に少し躊躇したが”バレンタインを一人で過ごすのは少し寂しい”という思いからリーゼの提案を受ける事にした。
そしてリーゼは平野菜月の傍らにいる聖霊と話をすると氷崎・葵へと微笑んだ。
初めは”1週間だけの恋人”と言う話を断っていた平野菜月も氷崎・葵の
「私、バレンタインの日に一人って少し寂しいなって思ってたんです。もし平野さんさえよければ・・・」
と言う言葉を聞き戸惑いながらも氷崎・葵に付き合ってくれていると言う訳だ。
今日でもう6日目。明日はいよいよバレンタインだ。
氷崎・葵はバレンタインに何を作ろうとわくわくしながら平野菜月へ顔を向けた。
すると平野菜月は沈んだ表情で俯いている。その様子に氷崎・葵は
「平野さん、どうかしたんですか?」
と心配そうに声をかけた。平野菜月ははっとした表情で
「いや、何でも無いんだ。明日はバレンタインだなと思って。」
そう言うと氷崎・葵に笑ってみせた。氷崎・葵はその言葉に目を輝かせて
「そうですよね。明日なんですよね。私頑張ってチョコレート作りますね。それともチョコレートケーキの方がお好きですか?」
平野菜月の顔を覗き込むと氷崎・葵は楽しそうに問いかけた。
「葵さんが作るものならきっと何でも美味しく食べられるよ。」
優しく微笑むと平野菜月は氷崎・葵へと言った。
「そうだと嬉しいんですけど、私こういうのにあまり慣れてなくって・・・」
氷崎・葵は少し俯くと顔を赤くしながら平野菜月に語った。
平野菜月はそんな氷崎・葵の姿を見て優しげに微笑むと
「大丈夫。きっと美味しくできるよ。」
そう言うと氷崎・葵の手をそっと握った。
平野菜月のその行動に氷崎・葵も安心した。そして
(もう少しでお別れなんだ・・・)
そんな風に少し寂しく思いながらも何でも無いと言う風に振る舞うと、氷崎・葵は平野菜月の手を握り返しいつものデートコースへと歩きはじめた。


ー 時計台の住人 ー

「とうとうこの日が来ちまったか。」
バレンタイン当日、時計台の住人はいつもにも増して深いため息をついた。
「あら、ため息?毎年の行事なのでしょう。いい加減慣れた方が良くは無くて?」
リーゼは時計台の住人に後ろから声をかけた。
時計台の住人はリーゼを見るとゴロンと寝転び
「何だ、お前さんか。で、お前さんの企みは上手くいってるのか。」
そう言い放った。その言葉にリーゼは嬉しそうに微笑み。
「そうね。上手くいっているわ。あの子も嬉しそうだし。でも今日で二人を別れさせるのは忍びなくなってきたわ。」
リーゼのその言葉に時計台の住人は寝転びながら
「お前さんと一緒にこの企みを企てた片割れもそう思うかもしれないな。ならあとは本人達の意思にまかせるしかないわな。」
リーゼにそう言葉をかけた。
「二人ともその意思があればそうしてあげたいわ。でもあの子の気持ちだけではどうにもならない問題ですもの。」
そこまで言うとリーゼはそう言うと言葉を濁した。
「なんだい、ハッキリしねえな。だから女は面倒だ。」
時計台の住人は無愛想にそう言うと時計台のてっぺんから下の公園を見下ろした。
「もう昼の一時半か。もうそろそろ告白する人間が集まって来る頃だな。で、お前さん達のカップルはいつここに来るんだ?」
そう問いかけた。その問いにリーゼは
「二人とも仕事があるから夕方の6時に待ち合わせしてるわ。」
リーゼの言葉に時計台の住人は満足すると
「仕方がねえな。サービスしてやるから協力しな。片割れもここに来るはずだからその時に俺が伝えてやるよ。」
その言葉にリーゼは少し首をかしげると時計台の住人に向かい
「サービス?あなたから言い出すなんて珍し事もあるものね。」
と時計台の住人へと笑いかけた。しかし時計台の住人はその言葉には答えず。
「ともかく夕方にまた来るこった。その時に教えてやるよ。」
そう言うと黙って時計台の下の疎らに集まったカップル達を静かに見つめた。
リーゼは時計台の住人の言葉を受けると静かにその場を後にした。
(二人はどうなるのかしら・・・)
リーゼはは自分で仕組んだ企みを少し後悔した。
もし氷崎・葵を傷つけるような事になったら、そう考えるとリーゼの気持ちは暗くなった。
(お互いがお互いの気持ちに気づけば良いのだけれど)
そんな事を考えながらリーゼは氷崎・葵の傍へと戻った。


ー 終わりとはじまり ー

氷崎・葵は5時に仕事が終わると待ち合わせの時計台へと急いだ。
リーゼも一緒に来るのかと思ったが
「最後なんだから二人でゆっくりしたら?」
とリーゼから言われ氷崎・葵は少し不安になった。
いつも一緒のリーゼさんが一緒じゃない。自分はどうしたいんだろう。
氷崎・葵はそう思いながら赤い紙袋を持ち時計台へと急いだ
時計台についたのは5時半。待ち合わせまでにはまだ30分ある。
手に持った赤い袋には手作りのチョコ。
(かたちは良く無いけど美味しく出来ているはず。)
そう思いながら氷崎・葵は紙袋を見た。
5時40分
氷崎・葵は何かを決断したような顔になると、公園近くの文房具店に駆け込んだ。
買ったのはバレンタインのメッセージカード。
入れるかずっと迷ってた。でもこれで終わりにしたく無い。
氷崎・葵はそう思うとメッセージカードに何かを書き、赤い袋へとそっと忍び込ませた。

6時を少し過ぎた頃、平野菜月は氷崎・葵を見つけて駆け寄ってきた。
「遅れてごめん。待ったよね?」
氷崎・葵を見つめ平野菜月は申し訳無さそうに語りかけた。
その言葉に氷崎・葵は首を振って
「私もさっき来た所ですから。」
少し微笑むとそう言った。しかし平野菜月は氷崎・葵その頬の色を見逃さなかった。
平野菜月が氷崎・葵の手をそっと握ると氷崎・葵に平野菜月の手の温かさが伝わってきた。
「本当は待ってたんだろ。いいよ気を使わなくても。」
氷崎・葵は少し舌を出すと、平野菜月に向かい
「お決まりの台詞、言ってみたかったんです。ごめんなさい。」
と謝った。これは本当の事。
普通の恋人みたいに”待った?”と言われ”ううん、全然”と答えてみたかった。
本当に小さな願いだがそれが今日叶った。
それを聞くと平野菜月は優しげに微笑んだ。
その微笑みを見ると氷崎・葵は赤い紙袋を平野菜月へと差し出した。
「これ、あの・・・頑張ったんですけど見た目があまり良く無くて・・・」
氷崎・葵は少し俯くと上目加減で平野菜月を見つめた。
平野菜月は赤い紙袋を受け取ると
「開けてもいい?」
と氷崎・葵に聞いた。氷崎・葵は少し恥ずかしそうに小さな声で
「はい。」
と答えた。平野菜月が中を開けるとそこには少しカタチがいびつなトリュフチョコが入っていた。いかにも手作りと言う感じが平野菜月には新鮮で心が少し温かくなった。
そしてその横にメッセージカードがついているのに気がつきカードに手を伸ばす。
氷崎・葵はそれに気づくと
「あ!」
と短く叫んだ。その声に気づきながらも平野菜月は好奇心に勝てずメッセージカードをっ開いた。そしてそこに書かれていたのは
(お友達になって下さい)
という氷崎・葵の言葉だった。平野菜月は驚き氷崎・葵を見つめた。
「えっと、あの。やっぱりこのままお別れするのは少し寂しいかなって。だから嫌じゃなければ。」
氷崎・葵は恥ずかしそうに俯き顔を赤らめると平野菜月へ言った。
その言葉に平野菜月は氷崎・葵に近づきそっと手を握ると
「喜んで。」
そう答えた。その時だった
ボーン、ボーン、ボーン
鳴るはずの無い時計台の鐘が鳴りはじめたのだった。と、同時に空から雪が降り始めた。
「綺麗。」
氷崎・葵はそう呟くと平野菜月の手をそっと握った。平野菜月も空を見上げ
「そうだね。」
と呟くと氷崎・葵の手を優しく握り返した。


「ま、こんなもんだろう。」
時計台の住人は満足すると二人を会わせる企みをした二人を見つめた。
「あなたのサービスってこの事だったのね。」
リーゼはそう言うと少し微笑んだ。
「何だ?何か不満か?」
時計台の住人はリーゼに向かい眉をひそめるとリーゼは首を振り微笑んだ。
「いいえ、とても素敵な演出だったわ。ありがとう。」
その言葉に時計台の住人は満足すると
「まあなるようになるさ。あとは二人次第だ。」
そう言うと時計台の下の二人を見つめた。



バレンタイン
それは氷崎・葵と平野菜月にとって恋人としての終わり。
そして友人としての始まりの日になった。
そのあとの物語はまた時計台の住人が語ってくれるだろう。


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